無銘(nameless/Anonymous)

2019 写真計測,インクジェット,照明
天空の芸術祭2019(観音寺)長野

「何を撮ってるんですか?面白いものあります?」 写真測量*1で記録撮影をしていたら、道ゆく人に声をかけられた。「この三角コーンを撮ってます」と言うと「...、これですか?」と不満げで難しい表情を浮かべていた。人目をはばからず執拗に時間をかけて記録撮影する私の姿をみて、レンズの先には滅多に見られない特別なものがあるはずと期待していたようだ。しかしそこにあるものは、そぐわない。人がする行為としての記録(主に写真や映像メディアによる)には、記録される対象が誰かにとって何か重要で価値があり、時間と空間を超えて共有し、残すべき特別なものに向けられる性質があるように思える。それは価値観や世界をどう捉えているか、人と外界とのつながりと深い因縁がある。

記録され保存され後世に残されていくようなものには真っ当な、ある種の支配的な偏りを感じることがある。この偏りが良いのか悪いのか、その偏りを眺めつつ、人によって固有に呼ばれる銘(めい)なきものたちを記録していく。重要そうではない、非日常で特別なものではなく、それでいて避けられ嫌われてもいない、普段の生活で視界に入ってはいても脳が意識しないような、無意識の中に溶けている日常的なものたちが、その対象として浮かんでくる。それらはきっと記録としては残っていかない(だろう)。


この展示は私が生活をする中で、無銘なものたちを記録した集まりと、長野で拾った流木、何十年と人の手が入らず閉ざされていた観音寺の土間という空間、それぞれの相互作用によって幾何学的にシミュレーションされ構成されいる。これらは私が感じた支配的な偏りに根ざした、世界の断片の収集であり、標本的なものと言えるだろう。

a.写真計測による無数の日常的なものたちの記録
b.拾った流木
c.観音寺で何十年と閉ざされ使われていなかった土間の空間
d.観音寺の土間の全方向の光情報

これらを作品という形態で展開した。

*1.写真測量(photogrammetry)
・複数の写真画像から対象物の幾何学的な空間や形状を得る技術、方法

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