Eye

2014 豚眼水晶体、機械/ Pig's eye Crystalline lens, machine
"Eye" 桒原寿行 個展 (N-mark B1) 愛知

「万物流転」桒原の作品を一言で言い表すならこの言葉につきる。全ての物事は留まることなく、移り変わって行く。特に桒原の関心は生命や肉体、自然界における現象など、私達が逃れることのできない経年変化にある。
「Mouse to Mouse」という絵画作品は、一見すると白地に黒い顔料で描かれた抽象画のようである。しかし、その白と黒の顔料は「冷凍マウス」、つまりマウスの死骸を利用して作られたものであることが、同時に展示された記録を見ると解る。その瞬間、見る者は軽い目眩と共に、最初とは明らかに違う意味を作品に見出す。マウスは丁寧に骨と肉に分けられ、骨組織は白、肉組織は黒の顔料へと変化していく。肉体は寿命という時間が尽きてもなお、腐敗、乾き、といった変化を続ける。そしていずれは朽ち果て、土や空気中に帰し、次の世代へと生命の鎖をつないでいく。このマウスの死(肉体)はアートへ昇華(変化)したわけであるが、このタイトルが蘇生術である「Mouth to Mouth」と音が似ているのは偶然ではないであろう。
桒原の作品には経年変化そのものを提示するものもある。それが、N-MARK B1で発表される「Eye」シリーズである。
ゾンビに私達がどう見えているか想像がつくだろうか?それはSFの産物であるが、「Eye」は彼らが見る、死後の世界からの風景がどんなものかを再現する装置である。
眼球には水晶体という組織があり、カメラのレンズの役割を担っている。寿命が尽きた生物の眼球から水晶体を取り出し、それをレンズとして光を屈折させて像を移す巨大な装置に組み込む。もちろん「裸」の水晶体は腐敗し、映し出される像も鮮明さを失い、徐々に劣化していく。それは、「死」という生命の時間的限界の先にある世界である。
この作品によって突きつけらる「死後の世界」は決してSF的なものではなく、痛いほどリアルで美しいものになるであろう。(N-mark)

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